『お弁当』 作:銀恋聖母 一路、竜の門を目指すエリウッド一行。 強行軍を繰り返してはいたが、お昼頃になれば流石に進軍は止まる。 「それじゃあ、レベッカ、有難うね〜」 「うん。ニノも、頑張んなさいよ」 「うん」 レベッカとニノは進軍の最中、一緒に行動をしていた。 共にスナイパー、賢者と役割も遠距離攻撃だし、何よりも年が近いので気が合う のだった。 そんな二人も、食事の時は別行動をとっている。 それに、何より今日はいつもと違うことがあるのだ。 兎に角、ニノはレベッカと別れると自分の想い人を捜し始めた。 その想い人はいつも、人の輪から離れた場所にいるので捜すのは意外と骨が折れる。 それでも、想い人の姿を見つけたニノは、その名前を叫びながら駆け寄った。 「ジャファル!」 「・・・どうした?ニノ」 ジャファルは木の幹に寄りかかりながら、携帯食料を食べようとしていた処だった。 ニノはジャファルに駆け寄ると、手にもっていた箱をジャファルに差し出した。 「あのね、あたしジャファルにお弁当作ってきたんだ!」 「・・・お弁当?」 「うん。今朝、レベッカと一緒に作ったの。ジャファルに食べて貰おうと思って」 「・・・そうか。わざわざ、済まない・・・ニノ」 「ううん、いいの。だった、ジャファルに食べて貰いたかったんだもん」 ニノはそう言うと、そのままジャファルの隣に腰掛けた。 そのまま自分の分のお弁当を広げる。 ジャファルは何も言わずに、ニノから貰ったお弁当の蓋を開けた。 「・・・?」 お弁当を食べ始めてからしばらくして、ジャファルはある事に気づいた。 自分のお弁当の中身はとても綺麗に整っているのだが、ニノのお弁当の中身には 焦げたものや、形の崩れたものが多く見られる。 「・・・ニノ。お前の弁当・・・」 「え・・・ああ、これ?失敗しちゃったんだ。あたし、まだレベッカみたいに得 意じゃないし」 そう言いながら笑うニノの指には、多少包帯が巻かれていた。 今日は戦闘はまだなかったし、昨日まではなかったはずだ。 「・・・ん?ああ、この包帯?」 ジャファルの視線に気づいたのか、ニノは自分の手を見ながら顔を赤らめる。 「えへへ。これね。火傷したり、包丁でちょっとね・・・」 「・・・ニノ」 「だって、ジャファルに食べて貰いたかったんだもん」 そう言うニノの顔は、更に赤くなってゆく。 また、それと同時にジャファルも自分の顔が紅潮してゆくのが分かった。 目の前にいる少女の健気さがジャファルにはたまらなく眩しかった。 そして、それと同時にこの少女の存在が、どんどん大きくなってゆくのをジャ ファルは感じた。 むろん、それは嫌な感情ではない。 むしろこれは、喜ばしい感情。 「・・・」 ジャファルは再び自分のお弁当に視線を戻すと、食べるのを再開させる。 今度は黙々と、何も言わずにひたすら食べて行く。 ニノは美味しいのか、不味いのか、不安でしかたなかったが、当のジャファルが それを知る由もない。 実はジャファル自身、黙々と食べているのは照れ隠しなのだが、これはこれでニ ノは知る由もない。 そうしているうちにジャファルはすっかりお弁当を平らげる。 「ジャファル・・・どう?美味しかった・・・?」 何も言わないジャファルに、ニノは不安そうに尋ねる。 ニノの中に段々と不安な気持ちがこみ上げてくる。 「・・・美味かった」 「え・・・?」 「・・・だから、美味かった。ニノの弁当」 「本当?本当?」 「・・・ああ。また、作ってくれるか?」 「うん。いいよ、いつでも作ってあげる」 ニノはこの日、最高の笑顔を見せた。 ジャファルが美味しいと言ってくれたことは勿論の事『また、作ってくれるか』 と言ってきた。 これはニノにとってはかなり意外だったのだが、嫌なはずはない。 「・・・ニノ」 「ん?なに?ジャファル」 「・・・ありがとう」 「・・・え、あ・・・うん!」 その時のジャファルの表情は、微かに笑っていた気がした。 いや、笑っていた。確かにジャファルは笑っていたと、ニノはそう確信している。 「ありがと、ジャファル」 ニノはそれだけ言うと、ジャファルの唇に一瞬、自分の唇を重ねた。 「えへへ」 「・・・・・・」 笑いかけるニノに、ジャファルは一瞬固まると、そのまま横を向きそのまま視線 を泳がせた。 今度は照れてると一目で分かるジャファルに、ニノはただ笑っているだけだった。 決戦の迫る中の、穏やかな昼下がり・・・・・・ おまけ 「・・・レベッカ、その弁当はどうしたんだ?黒焦げじゃないか」 「えへへ。これね。ニノの作ったやつなの」 「ニノの・・・?」 「そう。一緒に作ったんだ。ニノ、まだ上手く作れないから」 「・・・そうなのか。お前も大変だな」 「ううん。ニノ、とっても頑張ってるんだよ」 「そうか」 「で、レイヴァンさん、美味しいですか?」 「ああ、美味いな」 「えへへ」 |